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ガバナンスとは?意味や目的、強化策や影響について解説

ビジネスシーンで耳にすることの多い「ガバナンス」という言葉。「コーポレートガバナンス」、「ガバナンスを強化する」などと用いられ、一般的にも広く使われるようになった一方で、正確な意味はよくわからない…という方も多いのではないでしょうか。この記事では、意味や目的、強化策やその影響まで解説します。

ガバナンスの概要と定義

ガバナンスの意味

  ガバナンス(governance)「統治・支配・管理」を意味する言葉

ビジネスにおいては「コーポレートガバナンス(企業統治)」と言われます。2021年に東京証券取引所が作成したコーポレートガバナンス・コードでは、「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」と定義しています。健全な企業経営を行うための管理体制の構築とも言えるでしょう。

ガバナンスと混同しやすい言葉とその違い

ガバナンスと混同しやすい言葉を下にまとめました。違いや意味を理解しておくとよいでしょう。

ガバナンス:健全な企業経営がなされるよう監視・統制する仕組み

コンプライアンス:法令や社内ルール、社会規範に従い行動すること

リスクマネジメント:想定される経営上のリスクを未然に防ぐためにとるプロセス

コンプライアンスとの違い

コンプライアンスは、「法令遵守」を意味します。企業活動においては“法令”だけでなく、就業規則、公序良俗などの社会規範、企業倫理なども含まれます。コンプライアンスに対する意識を維持し、管理体制を整えていくことが、ガバナンスと言えます。

リスクマネジメントとの違い

リスクマネジメントは、経営上のリスク(危機)を事前に把握し、損失回避を目指すプロセスのこと。起きうるリスクを最小限に抑える対策をとることです。リスクマネジメントとは、危機管理の“手法”であるのに対し、ガバナンスは健全な企業経営を行うための“仕組み”を指します。

コンプライアンスもリスクマネジメントも、健全な企業経営を行うために、つまり“ガバナンスを強化する”ために必要な要素です。

ガバナンスの目的

ガバナンスの主な目的には、以下の2点が挙げられます。一つは、企業不祥事の防止。もう一つに、ステークホルダーの権利、立場の尊重があります。これらにより、企業の収益力を強化し、中長期的な企業価値を向上させることを目指します。

企業不祥事の防止

不祥事が発生すると、企業は深刻なダメージを負います。顧客からの信頼を失い、取引の中止、売上げの減少などにより、ひいては倒産に追い込まれるケースも珍しくありません。ガバナンスを維持、強化することで、経営の透明性を確保し、不祥事の発生リスクを抑えます。

ステークホルダーの権利・立場の尊重

企業活動を続ける上では、株主をはじめとしたステークホルダーに対し利益を還元する責任があります。ガバナンスの強化に取り組むことは、持続的な企業成長につながり、ステークホルダーとも良好な関係が継続できるでしょう。

これらにより、中長期的な企業価値の向上を目指します。企業が透明性の高い経営を行い、ステークホルダーとの良好な関係を継続することで、持続的な経営基盤を整えられるというメリットにもつながります。

ガバナンスの種類とそれぞれの特徴

コーポレートガバナンスの5原則

ビジネスの場面で多用される「コーポレートガバナンス(企業統治)」。近年、ガバナンスの必要性が増加しており、上場企業ではコーポレートガバナンスに関する報告書の提出が義務付けられています。ガバナンス強化を実施する際は前提知識として理解しておくとよいでしょう。また、東京証券取引所が作成したコーポレートガバナンス・コードでは、以下5つの基本原則が掲げられています。

※コーポレートガバナンス・コードとは、コーポレートガバナンスを実現するためのガイドラインのこと。

基本原則1【株主の権利・平等性の確保】

株主の権利・平等性の確保とは、上場会社が株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行い、株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うこと。また、上場会社は少数株主を含むすべての株主の実質的な平等性を確保すべきであり、その確保に対し、十分な配慮が望まれます。

基本原則2【株主以外のステークホルダーとの適切な協働】

会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、株主以外のさまざまなステークホルダー(従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会など)によるリソースの提供や貢献の結果であると十分に認識すること。取締役会・経営陣は、これらステークホルダーの権利・立場や健全な事業活動倫理を尊重する企業文化・風土の醸成に向けてリーダーシップを発揮しなければなりません。

基本原則3【適切な情報開示と透明性の確保】

会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、開示以外の情報提供にも主体的に取り組むことです。情報開示の際には、正確で利用者にとってわかりやすく、情報として有用性の高いものにすることが期待されます。

基本原則4【取締役会の責務】

上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、以下の3点をはじめとする役割・責務を適切に果たさなければなりません。

  1. 企業戦略等の大きな方向性を示すこと
  2. 経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
  3. 独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと

基本原則5【株主との対話】

上場会社の経営陣は、株主総会の場以外でも、株主との間で建設的な対話を行うべきです。 こうした対話を通じて、株主の関心・懸念に正当な関心を払うとともに、自らの経営方針を株主にわかりやすい形で明確に説明しその理解を得る努力を行わなければなりません。

企業においてはコーポレートガバナンス・コード、基本5原則の趣旨について理解を深め、取り組みを充実させていくことが望まれます。

参考サイト

「コーポレートガバナンス・コード ~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」
株式会社東京証券取引所 2021年6月11日

https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/nlsgeu000005lnul.pdf

ITガバナンス

デジタル化による企業経営課題の改善を図るDXや、AIのビジネス活用が進むにつれ、注目されるようになった「ITガバナンス」。ITガバナンスは、コーポレートガバナンスの中の一つという位置付けです。経済産業省が2023年4月にまとめた「システム管理基準」によると、以下のように定義されています。

「ITガバナンスとは、経営陣がステークホルダーのニーズに基づき、組織の価値を高めるために実践する行動であり、情報システムのあるべき姿を示す情報システム戦略の策定及び実現に必要となる組織能力」。

つまり、ITを適切に利活用する能力のこと。具体的には、IT設備の導入や運営、自社IT要員の育成など、情報システムに関するすべての活動や成果、及び関係者を適正に統制できる仕組みやルールを組織内に整備することを言います。

また、ITガバナンスは、国内のみならずグローバルレベルでの対策も求められています。企業の海外進出が進み、海外からの労働人口が増加している昨今、グローバルな視野で取り組むべき課題として、より重要性が高まっています。

参考サイト

「システム管理基準」経済産業省 2023年4月26日

https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/nlsgeu000005lnul.pdf

ガバナンス導入のプロセスとその影響

ガバナンスの有効な導入方法と強化の具体的な施策

ガバナンスを導入し、強化するための具体的な施策として、「コンプライアンスの徹底」、「監査体制の整備」、「内部統制の構築・強化」が挙げられます。

コンプライアンスの徹底

企業のガバナンスを強化するうえで、まず挙げられるのがコンプライアンスの徹底です。コンプライアンスを徹底する体制づくりとしては、社内リスクの管理、企業の行動規範の策定、社員教育や研修を行うなどの方法があります。組織としてコンプライアンス委員会を設置し、監視体制を整えることも効果的です。

また、昨今特に重要視されるのが、情報管理です。ITツールやクラウドサービスを利用する企業も増加し、それに伴い顧客情報や機密情報等の適切な管理が強く求められています。セキュリティ対策機能の見直しに加え、情報の取扱いに関して注意喚起を行うなど、コンプライアンスを徹底するように努めましょう。

監査体制の整備

経営活動に対し、第三者目線での監査体制を整えることが重要です。内部監査でも外部監査でも、第三者目線で監査することで、自社だけでは気づくことのできない不透明な業務上の問題や不適切なルールを発見しやすくなります。

また、テレワークが当たり前の働き方になっている昨今、リモートでの内部監査体制の構築も急務と言えます。

内部統制の構築・強化

内部統制とは、経営者や従業員が遵守すべき規則等に着目した統制とも言えます。定められたコンプライアンスに則り、各人が業務を行っているかを管理することです。具体的には、組織が適切な統治を取れるよう取締役会など組織構造の見直し、リスクの洗い出しや対応策の整備などの方法があります。方針を決める経営者と、方針を制度に落とし込む人事部門の連携が重要です。

ガバナンスが機能しないリスク

ガバナンスを導入、強化策をとったとしても、それが機能しないことも考えられます。その場合には、次のようなリスクが想定されます。

社会的信用の失墜

ガバナンスが機能していないと、不正や不祥事が起き、社会的信用を失うリスクが高まります。企業の管理体制が十分に行き届いていない状態、内部統制が取れていないため、不祥事が起きた際、即対応することができません。

グローバル化への対応の遅れ

経営の健全性や透明性が確保できないことにより、業務効率に問題を抱えることが多くなります。ガバナンスが機能していれば、業務課題も円滑に改善する体制が整っているため、市場で優位に立ちやすくなるでしょう。特に海外市場への進出、取引の際には、価値観や文化の違いから、リスクが生じやすい傾向が見られます。

具体的な企業でのガバナンスの取り組み事例

最後に、具体的な企業におけるガバナンスの取り組み事例をご紹介します。2019年に東京証券取引所が公開した「コーポレート・ガバナンスに関する開示の好事例集」には、コーポレートガバナンス・コードの原則に関して、充実した取り組みが行われ、その内容をわかりやすく提供した事例がまとめられています。ご参考にされてはいかがでしょうか。

参天製薬株式会社の例

参天製薬株式会社では、資本コストを意識した経営の一環として、「経営戦略や経営計画の策定・公表」を行っています。具体的な内容として、一つ目に3つの財務目標(売上成長率・コア営業利益率・フルROE)を達成目標として設定。3つの財務目標について、過去実績との比較とともにわかりやすく説明しています。二つ目に、資本コストを上回る利益の実現のため、評価基準を定めた上で、投資判断を実施。「世界で存在感のあるスペシャリティ・カンパニー」の実現という基本方針のもと、収益性、顧客満足度、組織能力の3つの「向上」を掲げた上で、具体的な事業戦略について説明しています。

株式会社みずほファイナンシャルグループの例

株式会社みずほファイナンシャルグループでは「取締役会の機能発揮」の面で、取り組み事例を開示しています。その内容は、取締役・監査役のトレーニングとして、全取締役向け、社外取締役向け及び社内役員向けと区分をした上で、それぞれに必要な知識習得・向上の機会を提供。特に社外取締役に向けては、就任時・就任後のフェーズに分けて提供した上で、その概要を実績(回数、期間等)も交えて記載しています。

参考サイト

「コーポレート・ガバナンスに関する開示の好事例集」株式会社東京証券取引所 2019年11月29日

https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/nlsgeu00000604s1.pdf

ガバナンスの重要性

ここまで、ガバナンスの意味や目的、強化策、事例について述べました。コンプライアンスやリスクマネジメント、内部監査が、内部統制として徹底されていることこそ、ガバナンスの基礎。内部統制を構築・強化していることを外部にアピールすることで、株主との信頼関係を育み、業務効率化にもつながると考えられます。

企業が持続的な成長と中長期的な企業価値向上を真に実現していくために、コーポレートガバナンス・コードの趣旨について正しく理解を深め、ガバナンス体制を強化する取り組みを充実させていくことが重要です。

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