2024年10月より社会保険の適用範囲が拡大され、「従業員数51人以上の企業」における短時間労働者の加入が義務化・定着しました。これにより、パートタイムやアルバイト従業員の多くが新たに社会保険の適用対象となっています。
2026年現在では、この51人以上基準の運用が定着した一方で、「企業規模要件(50人超)の撤廃」や「賃金要件の見直し」に向けたさらなる法改正の議論が本格化しています。
当記事では、社会保険の現行適用要件と企業・従業員双方のメリットを整理するとともに、今後予想されるさらなる適用拡大を見据えた、勤怠管理・社会保険手続きの効率化方法を解説します。
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社会保険適用拡大の経緯と現在の基準
社会保険の適用対象となる「企業規模」の要件は、これまで段階的に拡大されてきました。
直近では2024年10月より「従業員数51人以上の企業」へと対象が拡大され、2026年現在ではこの基準での運用が定着しています。要件を満たす短時間労働者(パート・アルバイト等)の社会保険加入は義務化されています。
社会保険の適用規模は、以下のように段階的な拡大を経て現在に至ります。

ここで判定基準となる「従業員数(51人以上)」とは、単なる雇用者数ではなく、以下の条件に当てはまる「厚生年金保険の被保険者数」を合計した数を指します。
・フルタイムの従業員数
・週の労働時間がフルタイムの3/4以上の従業員数
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社会保険とは
| 社会保険 | 国民の安定的な生活を守るために設けられた公的な保険制度 |
社会保険とは、国民の安定的な生活を守るために設けられた公的な保険制度です。病気やけが、災害、老後の生活や介護など不測の事態に備え、私たちの生活をサポートします。
一般的に社会保険とは「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」「労災保険」「雇用保険」の5つを総称します。短時間労働者への適用拡大において対象となるのは、このうち「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」の3つ(狭義の社会保険)です。
なお、2026年4月からは医療保険(健康保険)の保険料とあわせて「子ども・子育て支援金」の徴収が開始されています。社会保険に加入する際は、こうした最新の保険料負担の変化についても正しく把握しておくことが重要です。
▼ 子ども子育て支援金制度の詳細、計算方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
健康保険
健康保険は、従業員やその扶養家族が病気やけがをした際に、医療費の一部負担や各種給付を行う制度です。病院やクリニックを受診する際の自己負担が軽減(一般的に3割負担)され、安心して医療を受けることができます。
また、長期の病気やけがで働けなくなった場合に支給される傷病手当金、出産時の出産育児一時金など、各種給付金の受給が可能です。

厚生年金保険
厚生年金保険は、定年退職後の生活を支えるために設けられた公的年金制度です。従業員は現役時代に保険料を支払い、老後に年金を受け取ること(老齢年金)で、引退後も安定した収入源を確保することができます。
また、厚生年金保険には障害年金や遺族年金も含まれ、万が一の事態に備えることができる仕組みです。適用拡大により、多くのパートタイム労働者も老後の生活基盤を強化できるようになります。

介護保険
介護や支援が必要になった高齢者、障がい者を社会全体で支える仕組みが介護保険制度です。
40歳以上の被保険者が対象で、将来介護が必要となった場合には介護サービス利用料の一部が給付されます。

社会保険の適用要件
現在(2026年時点)、51人以上の企業においてパートタイムやアルバイト等の短時間労働者が社会保険の対象となる要件は、以下の通りです。
【社会保険の適用となる要件】
・週の所定労働時間が20時間以上であること
・所定内賃金が、1カ月あたり88,000円以上であること
・2カ月を超えて雇用される見込みがあること
・学生ではないこと
これらの条件をすべて満たす従業員は、自動的に社会保険への加入義務が発生します。企業は従業員の労働条件や雇用形態を正確に把握しておく必要があります。
【今後の展望】賃金要件の撤廃と企業規模要件の段階的廃止
社会保険の適用拡大は、今後さらに加速します。2026年10月には、これまで「106万円の壁」と呼ばれていた「月額88,000円以上」という賃金要件が廃止される予定です。これにより、週20時間以上勤務していれば収入額にかかわらず加入対象となります。
さらに、2027年10月以降は「従業員数51人以上」という企業規模要件も段階的に縮小・撤廃され、小規模事業者へも順次適用範囲が広がっていく方向で検討が進められています。
| 施行時期 | 企業規模要件※ |
| 2027(令和9年)年10月~ | 従業員数36人以上 |
| 2027(令和9年)年10月~ | 従業員数21人以上 |
| 2032(令和14年)年10月~ | 従業員数11人以上 |
※出典)日本年金機構:短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大
このように、段階的な法改正によって適用対象となる企業の条件(企業規模)が順次緩和されていくため、社内で新たに社会保険へ加入しなければならない対象従業員は着実に増加していきます。特に、週の労働時間管理や加入要件の判定は、手作業やExcel管理では追いつかず、担当者の業務負担増加や判定ミスのリスクが高まりやすいポイントです。
こうした法改正に伴う実務負担へ備えるため、「クラウド型勤怠管理システムの導入」による判定の自動化や、専門家へ業務を任せる「給与計算・労務BPO(アウトソーシング)の活用」を検討する企業が増えています。
社会保険の適用拡大によるメリット
社会保険の適用範囲が広がることにより、従業員、企業双方に多くのメリットをもたらします。それぞれ具体的に説明します。
従業員側のメリット
適用拡大による従業員のメリットの一つは、将来的な年金の増額です。厚生年金に加入することで老後に受け取る年金が増えるだけでなく、障害年金や遺族年金も充実します。
また、健康保険により、病気やけが、出産などの際には、傷病手当金、出産一時金(病休、産休中に給与の約3分の2相当を支給)など一時給付金制度を活用できるため、安心して働き続けることができます。

例えば、配偶者の扶養の範囲内という働き方をしていた場合、社会保険の加入により月々の給与から保険料が差し引かれるため、手取り収入が減少するというデメリットもあります。しかしそれ以上に、将来的な備えとなるメリットは大きいといえるでしょう。
企業側のメリット
企業にとって社会保険の適用拡大は、従業員のモチベーション向上にも寄与します。
それだけでなく、次に挙げる4つのポイントは、昨今叫ばれる人手不足の解消という側面からも大きなメリットといえます。

- 【ポイント1】
社会保険制度の充実は、従業員が安心して長期的に働ける環境を提供していることになるため、離職率の低下や従業員の定着率向上が期待されます。 - 【ポイント2】
健康保険や介護保険の恩恵を受けることで、従業員の健康管理や介護負担の軽減にもつながり、結果として労働生産性の向上も見込めます。 - 【ポイント3】
パートタイマーやアルバイトを採用・雇用する際、「社会保険完備」は求職者にとって大きな魅力となります。「将来の年金を増やしたい」「社会保険に入ってしっかり働きたい」と考える長時間就労希望の人材を集めやすくなり、人手不足の解消につながります。
ただし、企業は従業員と社会保険料を折半するため、従業員一人あたりの雇用コストが増加するというデメリットもある点には注意が必要です。
社会保険の適用に必要な手続き
社会保険の適用拡大に伴い、対象となる企業において必要となる実務手続きについて解説します。
対象となる従業員の洗い出し
まずは加入対象となる従業員を正確に把握します。パートタイムやアルバイト従業員の労働時間や給与を確認し、適用要件に合致しているかを洗い出す作業です。
この工程を効率的に進めるためには、勤怠管理システムの活用が有効でしょう。一般的なクラウド型勤怠管理システムなら、従業員の労働時間や給与額は自動集計、算出が可能です。適用要件に該当する従業員を迅速に特定することができます。
適用対象者への説明
適用対象となった従業員には、社会保険への加入について十分な説明を行います。社会保険に加入することのメリットや、保険料の負担についてしっかりと説明し、従業員が理解できるようにすることが大切です。
従業員にとっては手取り収入が減る可能性があるため、不安を感じることのないように、よくコミュニケーションを取りながら適切な説明を心掛けましょう。

必要書類の準備、提出
新たに社会保険加入となる従業員の社会保険加入手続き書類を準備します。
事業主は、従業員を採用した場合や、新たに健康保険および厚生年金保険に加入すべき者について「被保険者資格取得届」を日本年金機構へ提出する必要があるためです。
【必要な措置を取らない場合の罰則】
企業が社会保険の適用拡大に伴う必要な手続きを怠った場合、法律により罰則が科される可能性があります。
具体的には、未加入の従業員に対する遡及的な保険料の支払いや、法令違反として罰金が課される場合があります。年金事務所職員による立ち入り検査が入る可能性も否めません。
企業には、適用拡大に伴う法的な責任を理解し、適切なタイミングで必要な手続きを行うことが求められます。
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よくある質問(FAQ)
- Q2026年4月から開始された「子ども・子育て支援金」は、パート・アルバイトも対象になりますか?
- A
はい、対象になります。社会保険(健康保険)に加入しているすべての被保険者が対象となるため、適用拡大によって新たに社会保険へ加入したパート・アルバイト従業員からも、毎月の給与から健康保険料とあわせて徴収されます。
- Q自社の従業員数が「51人以上」の基準に該当するかどうかは、どのように判断すればよいですか?
- A
直近12か月間のうち、6か月以上で「現在の厚生年金保険の被保険者数」が51人以上となっているかどうかで判定します。フルタイム従業員に加え、週の所定労働時間および月の所定労働日数がフルタイムの3/4以上である短時間労働者の合計人数でカウントします。
- Q今後、従業員数50人以下の小規模企業にも適用拡大が広がると聞きましたが、いつから対応が必要ですか?
- A
厚生労働省の審議会等において、2027年10月以降を目処に企業規模要件(従業員数)を段階的に縮小・撤廃していく方向で議論が進められています。小規模事業者であっても直前に慌てないよう、あらかじめ勤怠管理のクラウド化や判定フローの自動化、給与計算BPOの検討を進めておくことをおすすめします。
勤怠管理システムの有効活用を
社会保険の適用拡大により、対象となる事業所では、従業員の労働時間や給与の管理がより複雑になります。そもそも勤怠管理、給与計算等の人事労務業務は、担当者にとって負担感の大きい内容です。
これを効率化するには、クラウドベースの勤怠管理ツールの活用がおすすめです。勤怠管理システムを導入することで、労働時間や給与のデータを一元管理でき、適用要件を満たしているかどうかは瞬時に判断できます。

正確な勤怠管理ができれば、社会保険の手続き、給与計算業務もスムーズに進み、ひいては企業価値の向上にもつながります。
システムの設定等、一時的に手間や金銭的な負担は増えるかもしれません。ただ、これを機に手厚い社会保障制度を提供することで、優秀な人材を確保するチャンスにもなり得ます。特に、社会保険の充実を求める労働者にとっては大きな魅力となり、採用活動にも有利に働くことでしょう。
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