2026年の施行が予定されていた労働基準法改正について、通常国会への改正案提出が見送られることとなりました。この動きを受けて「改正はなくなったのではないか」「当面は対応を考えなくてもよいのではないか」と感じられた方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、今回の見送りは、労働基準法改正そのものが白紙になったことを意味するものではありません。むしろ、制度設計を見直すための調整期間が設けられたと捉える見方もあります。
本記事では、予定されていた改正内容の主要ポイントと、今後を見据えて企業が確認しておきたい実務上のポイントについて解説します。
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なぜいま、労働基準法の見直しが議論されているのか?
労働基準法は1947年の制定以降、時代の変化に応じて部分的な改正が重ねられてきましたが、その基本的な枠組みは長く維持されてきました。
一方で近年は、働き方や労働環境が大きく変化し、現行制度との間にズレが生じつつあることが指摘されています。
特に、以下のような点が議題として挙げられています。

・一部の業種・職種において長時間労働が常態化し、健康面や人材定着への影響が懸念されている
・テレワークや副業など、従来の「1社専属・定時勤務」モデルに合わない働き方が広がっている
・労働者の権利意識が高まり、企業にはより丁寧な説明や情報開示が求められている
・国際的な労働基準(例:EUの「つながらない権利 (※)」)とのギャップが生じている
こうした背景のもと、労働時間・休日・休息の考え方を現代の実態に合わせて見直す必要性が議論されてきました。2026年を想定して検討されていた労働基準法改正も、こうした課題意識の延長線上に位置づけられます。
また、近年の労働関連法改正(2019年の働き方改革関連法、2023年の割増賃金率引き上げなど)を経て、企業の労務管理に対する社会的な期待は着実に高まっています。今回の改正検討も、こうした流れの中で「将来を見据えた制度のあり方」を整理しようとする動きの一つと捉えることができるでしょう。
※「つながらない権利」とは
勤務時間外や休日に業務上の連絡に応答しない自由を保障する権利。テレワークやスマートフォンの普及により、仕事と私生活の境界があいまいになっている現状への対応として注目されています。
2026年に向け検討されていた「労働基準法改正」の主なポイント
2026年の施行を想定して検討が進められていた労働基準法改正では、労働時間・休日・休息の考え方を見直す制度変更が中心になると見込まれていました。中でも企業実務への影響が大きいと考えられていた主なポイントは以下の通りです。
※今回、法案提出は見送られましたが、以下の論点自体が否定されたわけではなく、今後の再整理・再検討において引き続き議論される可能性があります。
勤務間インターバル制度の義務化
終業から次の始業までに一定の休息時間(例:11時間)を確保する勤務間インターバル制度を義務化する方向で検討が進められていました。たとえば、夜22時に退勤した場合、翌日の始業は原則として午前9時以降とする必要が生じる可能性があります。
【実務影響】
・夜勤明けや遅番後の翌日勤務が制限される
・シフト設計の見直しが必要
・勤怠システムでのインターバル管理が求められる
連続勤務の上限規制
過重労働を防ぐ観点から、連続勤務日数に13日という上限が設けられる方向で検討されていました。これにより、週1回の法定休日の確保がより厳格に求められます。
【実務影響】
・休日の明示と取得状況の管理が必須
・代休・振替休日の運用ルール整備が必要

法定休日の明確化
企業は週1回以上の法定休日をあらかじめ特定し、明示する必要性の整理が進められていました。就業規則や雇用契約書への記載の明確化が実務上のポイントになります。
【実務影響】
・就業規則の休日規定の見直し
・年間休日カレンダーの整備・共有
有給休暇の賃金算定における通常賃金方式の原則化
年次有給休暇取得時の賃金について、「通常賃金方式」を原則とする方向で整理が進められていました。これは、通常の労働日に支払われる賃金と同額を、有給休暇取得日にも支払う方式です。
【実務影響】
・給与規程や就業規則の記載内容の確認
・給与計算システムの設定見直し
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「つながらない権利」の導入
勤務時間外や休日に業務連絡へ応答しない自由、いわゆる「つながらない権利(Right to Disconnect)」が、ガイドラインとして策定される予定です。
【実務影響】
・メール・チャットの送信ルール整備
・管理職向けの意識改革や研修の実施

副業・兼業の労働時間通算ルールの見直し
複数の事業主で働く場合の労働時間の通算方法が見直され、割増賃金の算定基準が変わる可能性があります。
【実務影響】
・副業申請・申告制度の整備
・勤怠管理における通算対応の検討
「週44時間労働」の特例措置の廃止
一部業種の中小企業に認められている「週44時間労働」の特例措置について、見直しや段階的な廃止が検討されていました。あわせて、裁量労働制の運用・適用範囲の再確認も求められる可能性があります。
【実務影響】
・特例対象企業は週40時間制への移行が必要
・裁量労働制の適用職種・要件の再確認
~ 補足 ~
◆情報開示の強化
時間外労働や休日労働の実績、制度の運用状況について、労働者や求職者に対する情報開示が強化される方向が示されています。採用ページや求人票への情報掲載、また、労働時間実績の社内共有と記録保存が重要になります。
◆ 育児・介護と仕事の両立支援の強化
育児・介護と仕事を両立しやすい環境整備として、フレックスタイム制やテレワーク活用などの支援策は引き続き進められます。
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改正が企業に与える影響【5つの視点】
2026年の施行を想定して検討されていた労働基準法改正は、単に一部の制度を変更するものではなく、企業の労務管理全体に連鎖的な影響を及ぼす可能性がある内容です。
人件費やシステム対応といったコスト面に加え、規程整備や従業員への説明など、継続的な運用負荷が発生することも考えられます。主な影響を、実務の観点から5つの視点で整理します。
(1)人件費の増加
・シフト調整や人員増によるコスト増
・割増賃金の支払い対象拡大
(2)勤怠・給与管理の複雑化
・勤務間インターバルや副業通算への対応
・勤怠システムの改修・再構築
(3)就業規則・雇用契約の見直し
・改正内容を反映した規程整備
・労使協定の再締結が必要な場合も
(4)従業員教育・説明責任の強化
・誤解や混乱を防ぐための社内研修
・管理職のマネジメント力向上が不可欠
(5)採用・定着への影響
・法令順守企業としてのブランディング強化
・働きやすさを訴求する採用戦略の再構築

中小企業が特に注意すべきポイント【要点整理】
2026年の施行が想定されていた労働基準法改正では、制度そのものよりも、運用の仕方次第で企業対応の成否が分かれる内容が多く含まれていました。特に中小企業では、対応を誤りやすい“つまずきポイント”を事前に把握しておくことが重要です。
中小企業が特に注意すべきポイントは、次の5点です。

(1)制度対応が「場当たり的」になりやすい
日常業務に追われる中で部分的な対応を重ねていくと、全体像が見えにくくなり、結果的に労働時間や休日管理が複雑化する恐れがあります。
(2)就業規則と実際の運用にズレが生じやすい
休日の明示や休息ルールを就業規則等の書面に形式的に追加するだけでは、実務とのズレが生じやすくなります。
(3)法改正の“解釈”を誤りやすい
義務化・努力義務・ガイドラインの違いを正しく理解できていないと、判断に迷う場面が出てきやすくなります。
(4)複数拠点・グループ内で対応基準がバラつく
複数の拠点や部門を持つ場合、それぞれの判断に任せていると、対応基準にばらつきが生じる可能性があります。
(5)対応を「担当者任せ」にしがち
特定の担当者に依存すると、業務過多や引き継ぎ不能といったリスクが顕在化します。
次章では、これらのポイントを踏まえ、将来の制度改正を見据えて、中小企業が無理なく進めるための実務対応策を具体的に解説します。
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中小企業向け:実務対応の具体策
労働基準法の改正が検討される中で、中小企業では制度の理解よりも、実務として回るかどうかが大きな課題になります。特に「人手」「予算」「専門知識」の面で対応が難しい場面が多くなると予想されます。
ここでは、すべてを一度に完璧に整えようとしなくても進められるよう、日々の労務管理に直結する観点から、実務対応の具体策を整理します。
残業・労働時間管理を前提から見直す
勤務間インターバルや連続勤務の制限が強化されることで、これまで以上に労働時間の組み方そのものが問われます。
【対応策】
・月60時間超の残業が発生している部署・職種を洗い出す
・業務量の偏りがないかを確認し、平準化を検討する
・業務プロセスの見直しやRPA等による効率化を検討する
・勤怠管理システムで、残業時間に対するアラート設定を行う
・管理職向けに、残業抑制を意識したマネジメント研修を行う
▼RPAについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
就業規則を「書類」ではなく「運用目線」で整備
就業規則が「ひな形のまま」になっていたり、実態と乖離していたりするケースが少なくありません。2026年改正では、就業規則に明記すべき項目が増えるため、放置しておくと労基署からの是正指導や従業員とのトラブルにつながる可能性があります。
【対応策】
・現行の就業規則を棚卸しし、実際の運用内容を照らし合わせる
・改正内容を反映した「中小企業向け簡易モデル規則(※)」を活用する
・改正内容を踏まえ、必要最低限かつ実務に即した規則に再設計する
・就業規則の改訂後は、従業員説明会を実施し、周知・同意を得る
※ 厚生労働省:モデル就業規則について
外部専門家(社労士・弁護士)との連携強化
中小企業では、法改正の情報収集や制度設計をすべて内製で行うのは現実的に困難です。特に、労働時間制度や割増賃金の計算、就業規則の法的整合性などは、専門知識が求められる領域です。
【対応策】
・顧問社労士との定期的な打ち合わせを設定する(月1回など)
・就業規則改訂などはスポット型サービスを活用する
・労務トラブルが想定される場合は、弁護士と連携して早期解決を図る
・商工会議所や業界団体が主催する無料セミナー・相談会に参加する
グループ会社・関連会社とのルール統一
複数の法人や事業所を持つ中小企業グループでは、拠点ごとに対応が分かれると、管理負担やリスクが高まります。全社的な統一ルールが求められる場面が増えることが予想されるため、グループ内での整合性が重要です。
【対応策】
・グループ全体で「労務管理方針」を策定し、共通ルールを明文化する
・就業規則や勤怠ルールを可能な範囲で統一する
・グループ横断の労務担当者会議を定期開催し、情報共有を図る
・勤怠・給与システムも可能な限り統一し、管理の一元化も視野に入れる
自社対応の限界を見極め、BPOやクラウド活用も視野に
中小企業では、労務担当者が1人または兼任であることが多く、法改正対応に十分な時間やリソースを割けないのが実情です。すべてを自社で抱え込むのではなく、外部の力を借りることも現実的な選択肢です。
【対応策】
・勤怠管理・給与計算のBPO(外部委託)を検討する
・クラウド型の労務管理システム(例:SmartHR、freee人事労務など)を導入する
・就業規則の作成・改訂をパッケージ化した社労士サービスを活用する
・対応状況をチェックリスト等で可視化し、進捗管理を行う
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無理のない範囲で法改正への備えを
2026年に予定されていた労働基準法改正は、結果として通常国会への提出が見送られました。しかしこれは、改正そのものがなくなったことを意味するものではありません。
むしろ、制度設計を整理し直すための調整期間が設けられたと捉えるのが現実的でしょう。言い換えれば、企業にとっては「何も考えなくてよい時間」ではなく、将来の改正に備えて、無理のない準備を進められる段階に入ったといえます。

法改正は、ある日突然決まって即施行されるものではありません。国会提出の見送り後も水面下での議論を経て、ある段階で一気に実務対応が求められるケースがほとんどです。
そうした局面に備えるためにも、いまの段階で以下の点を少しずつ確認しておくことが重要です。
・自社の勤怠管理や運用に無理がないか
・就業規則と実態にズレがないか
・自社で抱え込まず、外部活用も含めて検討できているか
これらを整理したうえで、自社で対応すべき業務と外部に任せる業務を切り分けて考えることが、無理のない法改正対応につながります。
クラウド上のソフトウェアと、業務をアウトソーシングできるBPOを組み合わせた「BPaaS」について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
法改正対応は、単なる「コスト」や「義務」ではありません。将来の制度変更にも耐えられる労務管理体制を整えることは、従業員や求職者からの信頼につながる基盤づくりでもあります。
見送りとなった「いまだからこそ」、外部の専門家や仕組みも上手に活用しながら、自社に合った形で、無理のない準備を進めていきましょう。
勤怠管理の負担を減らし、法改正対応を無理なく進めたい方へ
改正対応に伴う勤怠管理の実務を外部に任せることで、社内の負担を抑えながら、安定した運用を目指すことができます。
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※本記事の内容は、2025年11月時点で公表されている厚生労働省「労働基準関係法制研究会」等の資料をもとに作成しました(2025年12月23日公開時点)。
今後の議論により、具体的な制度内容や施行時期は変更される可能性があります。
参考資料: https://www.mhlw.go.jp/content/11402000/001370269.pdf






